「クリキンディの創った話とか音楽とか」カテゴリーアーカイブ

本当の彼とハチドリ

<少年とハチドリ>
<青年とハチドリ>
<彼とハチドリ>
のつづきです。

真っ暗だった。
何も見えない。
そこはコールタールの海みたいだった。

「ねぇ、どこにいるの?」
ハチドリのクリキンディが声をかけてみても、
何の反応もなかった。

ついに、ぼくの前から消えちゃったのかな…

ここは、クリキンディの心の想像の世界。
クリキンディが現実世界で、うまくコミュニケーションがとれない人、
こっそり「奥目王子」と呼んでいる彼の、
インナーチャイルドと話をしてみたい、
そうして始まった心の旅は、
金髪の少年との冒険、
金髪の青年との大暴れ、
被爆してしまった彼との心の対話、
と続いた。

ついにいなくなっちゃったのか…?

コールタールの海で、クリキンディは、もう一度探してみようと思っていた。
自分の想像の世界なんだから、この闇を祓えばいいんだ…

…そうだ!電気をつけてみよう!

何も見えない中で、右手を伸ばして探ってみると、
壁のような感触と、スイッチの感触が手のひらにあたった。

ぱちっ!

ざざ〜〜っと闇が晴れた。
思いのほか小さな部屋だった。

そして、その部屋には、
金髪の彼ではなく、奥目王子本人がいたのだ。

わ!ちっちゃい!
とクリキンディは心の中でつぶやいた。

奥目王子は、現実の姿そのものだったけれど、
抱きかかえられる赤ちゃんぐらいの大きさしかなかった。

こっちを見ようとしない。

…怖いんだね。
だから小さくなっちゃってるんだね。

ぼくは君を傷つけたりしないよ。
戦わないって決めたから。

金髪の少年も青年も、
本当の君が、鎧のように身につけていた仮の姿だったんだね。
その鎧は原爆で吹き飛んじゃったし、
やっと本当の君に会えたってことなんだね。

君が、君を守ってくれていたと思っていた闇は、
アーリマンだったんでしょう?

闇の存在に守ってもらわなくても、
君が君自身を生きた方がいいと思わない?

ね、君はこの人生で、本当はどんな風に生きようと、計画していたの?
また来るから、今度教えてね。

<等身大の彼とハチドリ>につづく

人気ブログランキングへ←まさか、こんなに長いシリーズになるとは…

彼とハチドリ

<少年とハチドリ>
<青年とハチドリ>
のつづきです。

「君はだれ?なぜそんなことになってるの?」

何もない空間に、
ひとりの人らしい形をしたものがいる。

「金髪の青年を探してるんだけど、どこにいるか知らない?」
ハチドリのクリキンディが話しかけた相手は
何も言わずそこにゆらゆらと立っている。

それは、顔が半分しかなかった。
そして、身体じゅう、真っ黒に見える。
まるでコールタールが張り付いているようだ。

うつろな目はどこを見ているのかわからないし、
口のように見える部分からも、言葉が出ることはなかった。

もしかして…
君が、あの金髪の青年なの…?

もしかして…
ぼくがあんなことをけしかけたせい…?

金髪の彼が少年だった時には、
地球上を探検した。

彼が青年になった時、
彼の作り出した街を、原子爆弾で粉々に吹き飛ばした。

自分で作った爆弾で被爆した、ということ…?
想像の世界なのに?

自分の行動の責任をとったということ?

そうか…
すごい経験をしたんだね。

金髪だった彼に聞こえているのかわからないままに、
クリキンディは話し続けた。

チェルノブイリの事故処理にあたった人の、ドキュメンタリー映画を見たことがあるんだ。
メルトダウンして爆発した炉心を、コンクリートで固める処理が行われたんだけど、
その作業員たちは、順番に列を作り、
走って炉心まで行き、
そこで30秒とか1分とか、時間を決めて作業をして、
また走って帰ってくる。

そうやって、少しずつ被爆させられたため、
肉が少しずつ溶けて落ちて、
骨が見えているのに、死ぬこともできず、
長い間苦しんだんだって。

君もすごく辛いんだろうね…
ごめんね、わかってあげられなくて…

また…、来るよ。

<本当の彼とハチドリ>につづく

人気ブログランキングへ←うう、めっちゃ重たい話になっちゃいました。もうショートショートじゃないっすね…

青年とハチドリ

<少年とハチドリ>のつづきです

郊外の住宅地、大きな団地がいくつも並んでいる地域の真ん中に
小さな公園が作られている。
緑が豊かなわけでもなく、子供たちが遊べるわけでもなく、
ただ、バス停とベンチがあるだけの公園。

そのベンチに、青年は随分前から座って動かなかった。

もとはキレイな金髪だったと思われる長髪は、
もつれてあっちこっちにハネている。
おそらく高校生ぐらいの年齢だと思われるのに、
表情はとてもやつれて老けて見える。
いろんなことへの怒りを通り越して、失望の中に沈んでいるように見えた。

どこからか、小さな一羽のハチドリが飛んできた。
青年の肩に止まって小さな声で話しかけた。
「やぁ」

青年は、ハチドリを見ようともしなかった。
「なんだよ…」

「クリキンディだよ」
「知らねぇよ、そんな名前」
「また、自分だけの世界に入っちゃったの?」

青年はふと、思い出した。
幼い頃に、クリキンディという名の誰かに、
海や空の冒険に連れていってもらったことを。

「何しに来たんだよ」
「…遊ばない…?」
「何言ってんの?オレは子供じゃないし、忙しいんだよ。鳥と遊んでる暇はねぇよ!」

青年は、自分をとりまくすべてのことに腹を立てているみたいだった。
何もかも面白くない、楽しいことなんてひとつもない、
そんな風に見えた。

「あのね、こんなつまんない街、壊しちゃおうよ」
クリキンディの突飛な提案に、青年はギョッとして立ち上がった。
「ウルトラマンとか、怪獣が街を壊しちゃうの、あるでしょ?あれ、一度やってみたくなかった?」

「壊すって…おまえ……」
「いいじゃない?だって、ここは君が作り出した世界。誰にも迷惑はかからないよ」

大きな団地に回し蹴り!
小さな家は踏みつぶす!
電柱も全部引っこ抜いて、遠くに投げた。

汗をかきながら、壊しまくる青年の顔には、笑顔が浮かんでいた。
「よ〜し!今度はこっちも壊すぞ〜!」

ひととおり壊し尽くして、座り込んだ青年に、
クリキンディが話しかけた。
「ずっと、こうしたかったんでしょう?我慢してたんだよね。
どう?やってみたらスッキリした?」

「うん、オレさ、自分がやりたいと思っていたことは、全部、親に反対されてできなかった。
それでも、やればよかったんだけど、勇気がなかったんだよな。
もう、やってみたい、ってことさえ言葉にできなくなって、
自分が本当にやりたいことが、何なのかわからなくなってたんだ。」

「もう、ここではやり残したことはない?」
「うん。…いや、せっかくだから、全部吹っ飛ばしちゃおう!
思い切って原爆使ってみるか!」
「その意気!やっちゃえやっちゃえ〜!」

青年が心の中に作り上げた「誰もいない街」は、
大きな「きのこ雲」とともに、きれいさっぱり消えてしまった。

「面白かったね。サヨナラ。元気でね!」
爽やかに飛び去るクリキンディは、
またすぐに、彼の作り上げた世界に来ることになろうとは、想像していなかった。
<彼とハチドリ>につづく)

人気ブログランキングへ←癒してるのか、けしかけているのか、もうわからなくなってますね…

現代版「鬼退治」

夕暮れ時、村から少し離れた道の脇の切り株に、
ひとりの旅人が腰掛けていた。

「ああ、疲れた…。もう一歩も歩けそうにないよ…」

しかし、今夜の宿も決めていない。
懐も軽く、夕食にすらありつけそうにない。
しかも、その背中には、大きな薄汚れた荷物がふたつ。

「ああ、私はどうすればいいんだろう。
世の中の悪と戦って、この国を平和にしたい、
そう思って旅に出たはずなのに、
桃太郎のように、簡単に鬼退治ってわけには行かなかった…」

一番星が見え始めた。
カラスが、山に向かって飛んで行く。

旅人は、鬼退治さえすれば、みんなが幸せになるのだと思っていた。
しかし、
旅人には、誰が鬼で、誰が鬼じゃないのか、もうわからなかった。

ある鬼は、お金が大好きだった。
お金を手に入れるために、様々な嘘をつき、善良な人からまきあげて姿をくらまし、
別な町で、また新しい嘘をついた。

また、ある鬼は、愛を欲しがった。
愛と感じられるなら、なんでもいいようだった。
常に愛の言葉を欲し、愛の表現としての貢ぎ物を欲し、
ほんの少しでも、そのものが他への愛情を示せば、裏切りと看做し、様々な攻撃をした。

また、こんな鬼もいた。
「お前のためにしてやっているんだ。おれの言うことを聞けば幸せになるが、聞かなければ不幸になるぞ」
そうやって、自分の幸せの基準を相手に押し付けて、恐怖心を刷り込む。
この鬼は、本当にやっかいだ。
あろうことか、この行動を「愛」だと信じてやっている。自分が鬼であることに気付かない…。

しかし、この国にもっともたくさん存在していた鬼は、
旅人をもっとも落ち込ませた。
彼らは、なるべく、となりの鬼と違うことをせず、目立たないように生きていた。
もし、誰かが「お金の鬼」や「愛情の鬼」にとりつかれて泣いていたら、
その被害者が自分でなくてよかった…
そう思って、遠くから見ているだけだった。

旅人は、彼らを「無関心の鬼」と名付けた。
「無関心の鬼」は、とても視野が狭かった。
おそらく自分と、その周辺しか見えていない。
遠くで起きている山火事が、自分のせいで起きていることに気付かず、
火を消そうともしなかった。
「だって、オレたち困ってないし。困ってる誰かが消せばいいんじゃね?」

もう、旅人は立ち上がることすらできなかった。
空はすっかり暗くなり、東の空からは月がのぼりはじめた。

「神様…私はもう戦えません。この国は鬼だらけです。
悪を倒せば平和な世の中になると思っていたけれど、そうじゃなかった…。
神様、私の負けです。助けて下さい」

小さくつぶやいた旅人の口元に、白いものが舞い降りてきた。
雪だ。
このまま、凍えて息絶えてしまうかと思われた。

「神様、神様、そろそろいいんじゃないですか?すっかり懲りたようですよ。もう許してあげましょうよ」
天界では、美しい羽衣をまとった天女が、神様を説得していた。
「うむ、そうじゃのう。あいつもようやく気付いたようじゃし、許してやるか。」

神様がピカピカに磨き込まれた杖を軽く一振りした。

半分雪の中に埋もれかけていた旅人は、
ハッと目を覚ました。
背中に背負ったふたつの大きな荷物を、背伸びしながら拡げると、
それは大きな白い翼となった。

ふわりと飛び上がり、天界を目指す旅人の本当の職業は「天使」だった。

眼下に広がる美しい地球を眺めながら、天使は思っていた。
「世界は、善と悪でできているわけじゃなかった。」
神様はいつも言っていたのだ。
「勧善懲悪なんておとぎ話じゃ!水戸黄門が現実なわけがなかろうが!」

「神様、私は天使として本当に未熟でした。
天から眺めるだけでなく、実際に旅をして、人と触れ合って、ようやくわかりました。
鬼たちを倒すのではなく、救うべきだったんですね。
神様、私、休暇のあとで、またがんばっちゃいますからね〜!」

私たち人間は、未熟な天使さんには「鬼」に見えているのかもしれませんよ〜(* ̄m ̄)

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少年とハチドリ

その少年は、きれいな顔をくしゃくしゃにして、今にも泣き出しそうだった。
大きな夕陽が水平線に沈もうとしている。

「泣きたい時はね、がまんしなくていいんだよ。
大きな声を出したって、風と波が消してくれるし、
あの夕陽以外は誰も見てないんだから。」

誰もいない砂浜で、海に向かってわんわん泣き出した少年の金髪は、
何年も櫛を入れていないみたいにぐしゃぐしゃだった。

ひとしきり泣きじゃくった後、
少年は隣にいる大人に、ようやく聞いた。
「おまえ、誰だよ」
「クリキンディだよ」
「変な名前だなぁ」
「南米じゃちょっとは有名なんだけどな…」

「おい、クリキン!お前、なんでオレをこんなとこに連れてきたんだ?」
「連れてきたんじゃないよ。君はずっとここにいたんだ。ひとりぼっちで。
君のまわりにいた大人たちが、ここにいる君に気付かなかっただけさ。」

「わけのわかんないこと言うな!おれの家はすんごくでっかいお城なんだぞ。
こんな何もない砂浜なんかじゃない!」

「ここは、君の心の中だよ。君の好きなこと、なんだってできるんだよ。」

怒鳴りつけようとしていた、金髪の少年は、
ピクっと止まった。
「なんでも、か?」

「そう、なんでも。まずは、私がこの砂浜になるから、君はカニになって歩いてみないかい?」
「そんなつまんないこと、おれはしないよ!」
「何言ってるの?つまんないだなんて、やったこともないだろう?」

「うへっ、横にしか歩けないじゃないか!砂の上は歩きにくいし、いやだよ!」
「波の方へ行ってごらん…」
「わぁ!小さな泡がたくさん!あ!!!」
カニになった少年は小さな波にさらわれて、海の中へ引きずり込まれた。

「どう?カニになって海を泳ぐ気分は?」
「…びっくりしたじゃないかっ!!」
「力を抜いて、波に身を任せるんだ」
「…ゆらゆらして、なんか気持ちいいよ」
「だろう?」

「お前は砂浜なのに、なんで海の中にもいるんだ?」
「海の底が砂浜じゃないとでも思ってたのかい?今度は君も砂浜になってごらんよ」

海の底の砂は、硬く沈んでいるような気分だった。
それでも、海底表面は、波に揉まれて少しずつ動いている。なんだかくすぐったい。
「乾いた砂浜はもっと面白いよ」

その瞬間、波打ち際から離れた砂の表面にいた。
風が吹く、
飛んでいく砂粒のひとつ、
飛ばされなかった砂粒のひとつ、
両方とも、自分の気持ちだ…。
すごく小さいんだけど、でも遠くにいる砂も自分だ。
海の底にいる砂も、また自分だ。
少年は不思議な感覚を覚えていた。

「さぁ、次は海の水になろう!」
風に飛ばされる水しぶき、
海の底でたゆたう波、
魚たちのヒレにかき回される小さな波、
だけど、地球全体を包んでいるという大きな感覚もある。

「君は今海の水だけど、川の水にだってなれるよ。繋がってるんだから。」
森の中、岩の表面を流れて、小石を運ぶのは、なかなかいい気分だった。

「おわ!熱っ!」
「そこは温泉が吹き出しているところさ。せっかくだから、露天風呂のお湯になってみようか。
女湯の方がいいよね?」

少年は、うれしさと恥ずかしさと複雑な気分で、怒りたいような、溶けてしまいそうな、
もみくちゃな気分だった。

「どうだい?水になった気分は。このまま蒸発すれば空気の中に飛んで行くこともできるよ。」

「うわぁ!もうこんなに高いところに来ちゃったよ。クリキンディ見て!
あれが、オレんちだよ、お城の屋根が見えるよ!」

「もっと、いろんなところを見てごらん。空気になった君は、空気の存在する場所をすべて、感知することができるんだよ。」

少年は、地球全体を感じることができた。
ジャングルの湿った空気、砂漠の乾いた空気、都会の汚れた空気、ヒマラヤの凍った薄い空気。
人が呼吸するたびに、いろんな人の肺にも入ってみた。
嬉しい人、悲しい人、怒っている人、病気の人、
みんなの気持ちが全部いっぺんにわかる。

「クリキンディ、オレさ、他の人がこんな気持ちでいるなんてこと、想像もしたことなかったよ。」
「だって、君はずっと自分の心の砂浜でひとりぼっちでいることを望んでいたからね。」
「オレ、ずっと淋しかったんだ。誰もオレのことわかってくれない。みんな敵だと思ってた。」
「知ってるよ。」
「だけどさ、オレ、全然なんにも見てなかったんだね。
オレ砂浜になって、海になって、空気になって、地球の気持ちや人の気持ちがちょっぴりわかったよ。」
話しかけようとして、少年は、クリキンディがいないことに気がついた。

「おい!どこ行ったんだよ!クリキンディ!!」

探し続けて、疲れて眠ってしまったらしい。
少年は自分のベッドで目が覚めた。

「夢…?」
窓を開けると、庭のりんごの木にハミングバードが来ている。

今までの少年なら、おもちゃ箱からエアガンを持ってきて撃とうとしただろう。
「お前は花の蜜を吸いたいんだね。オレもハチミツは好きだよ。」

なんだかちょっと大人になった気分だった。
夢のことははっきり覚えていた。
あのハチドリにクリキンディって名前をつけて呼ぼう。

それにしても、あいつひとつだけ嘘をついたな。
オレの泣くところを見てるのは、太陽だけだって言ったけど、
砂だって、波だって、風だって、雲だって、
みんな、オレのこと見てたんだ。オレが泣いてること、知ってたんだ。

…ひとりぼっちなんかじゃなかったんだな…。

少年は、この朝、はじめて自分の金髪に櫛を入れた。

<青年とハチドリ>につづく

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