青年とハチドリ


<少年とハチドリ>のつづきです

郊外の住宅地、大きな団地がいくつも並んでいる地域の真ん中に
小さな公園が作られている。
緑が豊かなわけでもなく、子供たちが遊べるわけでもなく、
ただ、バス停とベンチがあるだけの公園。

そのベンチに、青年は随分前から座って動かなかった。

もとはキレイな金髪だったと思われる長髪は、
もつれてあっちこっちにハネている。
おそらく高校生ぐらいの年齢だと思われるのに、
表情はとてもやつれて老けて見える。
いろんなことへの怒りを通り越して、失望の中に沈んでいるように見えた。

どこからか、小さな一羽のハチドリが飛んできた。
青年の肩に止まって小さな声で話しかけた。
「やぁ」

青年は、ハチドリを見ようともしなかった。
「なんだよ…」

「クリキンディだよ」
「知らねぇよ、そんな名前」
「また、自分だけの世界に入っちゃったの?」

青年はふと、思い出した。
幼い頃に、クリキンディという名の誰かに、
海や空の冒険に連れていってもらったことを。

「何しに来たんだよ」
「…遊ばない…?」
「何言ってんの?オレは子供じゃないし、忙しいんだよ。鳥と遊んでる暇はねぇよ!」

青年は、自分をとりまくすべてのことに腹を立てているみたいだった。
何もかも面白くない、楽しいことなんてひとつもない、
そんな風に見えた。

「あのね、こんなつまんない街、壊しちゃおうよ」
クリキンディの突飛な提案に、青年はギョッとして立ち上がった。
「ウルトラマンとか、怪獣が街を壊しちゃうの、あるでしょ?あれ、一度やってみたくなかった?」

「壊すって…おまえ……」
「いいじゃない?だって、ここは君が作り出した世界。誰にも迷惑はかからないよ」

大きな団地に回し蹴り!
小さな家は踏みつぶす!
電柱も全部引っこ抜いて、遠くに投げた。

汗をかきながら、壊しまくる青年の顔には、笑顔が浮かんでいた。
「よ〜し!今度はこっちも壊すぞ〜!」

ひととおり壊し尽くして、座り込んだ青年に、
クリキンディが話しかけた。
「ずっと、こうしたかったんでしょう?我慢してたんだよね。
どう?やってみたらスッキリした?」

「うん、オレさ、自分がやりたいと思っていたことは、全部、親に反対されてできなかった。
それでも、やればよかったんだけど、勇気がなかったんだよな。
もう、やってみたい、ってことさえ言葉にできなくなって、
自分が本当にやりたいことが、何なのかわからなくなってたんだ。」

「もう、ここではやり残したことはない?」
「うん。…いや、せっかくだから、全部吹っ飛ばしちゃおう!
思い切って原爆使ってみるか!」
「その意気!やっちゃえやっちゃえ〜!」

青年が心の中に作り上げた「誰もいない街」は、
大きな「きのこ雲」とともに、きれいさっぱり消えてしまった。

「面白かったね。サヨナラ。元気でね!」
爽やかに飛び去るクリキンディは、
またすぐに、彼の作り上げた世界に来ることになろうとは、想像していなかった。
<彼とハチドリ>につづく)

人気ブログランキングへ←癒してるのか、けしかけているのか、もうわからなくなってますね…


「青年とハチドリ」への2件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です