<ひとばしら〜その1〜>のつづきです。
興味半分で、霊能者のもとを訪ねたケイコ、
しかし、そこで、前世の自分が「自分の娘を人柱に差し出した」と言われ、
ケイコの心は罪悪感でいっぱいになっていた。
この後に、なんと言われたのか、よく覚えていない。
レコーダーを持っていって録音しておけばよかった…
そう思ったけれど、後の祭だった。
障害を持って産まれた子供は、
あの時代、一生隠れて暮らすしかなかった。
土蔵で一生を終えるくらいなら、
人柱に立つことで、お城を守るお役に立つのだから、
とみんなに説得され、
首を縦に振るしかなかった。
「あなたは、娘のことを愛していたし、娘もそれをわかっていたのよ。
彼女は、人柱に立つことを、むしろ誇らしく思っていたの。
だから、あなたが現世で罪悪感を持つ必要はないのよ。」
そう霊能者は言っていたと思う。
「あなたが、今の人生で先に進めないのは、
この時の悲しみの記憶が、心の奥底にあるからなの。
もう手放しましょうね。自由になっていいのよ。」
そんなことも言われた気がする。
だけど、
罪悪感を持たない、なんて無理…
だって、自分が産んだ子でしょう?
どんな障害があったって、手放すなんて考えられないし、
今の私なら、絶対に「うん」と言わない。
自分が人柱に立ったって、娘を守るはずだわ。
なぜ…
ケイコは、この日以来、今までに試してきた、
スピリチュアルリーディング、チャネリング、ヒプノセラピーなど
一切のセラピーを封印してしまった。
霊能者が、ケイコに、人柱のことを語ってから、数年が経っていた。
あの日以来、涙腺のスイッチがおかしいと、自分で思う。
ここ、普通泣くとこでしょ?と思うところで泣けなかったり、
突然涙があふれてきたりする。
胸の奥に、時折、チクリと痛みが走ることはあったけれど、
あの日のことを、思い出すことはほとんどなくなっていた。
そんなある日、
職場でたまに顔を見る、取引先の女性に、
ケイコが書類を持っていった時のこと、
すでに、打ち合わせは終わり、会話は雑談に入っているようだった。
「それでね、私、昔、っていっても、今の自分じゃないですよ、
生まれ変わりってあるじゃないですか〜、
その生まれ変わる前の人生で、
橋が流されないように、人柱に立って死んだことがあるらしいんですよ〜」
打ち合わせテーブルから離れようとしていたケイコは、
ぎょっとして思わず振り返った。
「い、今、ひとばしら、って言いました?」
<ひとばしら〜その3〜>につづく