泣けなかった。
涙腺にスイッチがあるのだとしたら、
たぶん、壊れたんだと思う。
それほど衝撃的だった。
*****
「ああ…あなた、”人柱”って知ってますか?」
よく当たると言う霊能者のもとを訪ねていたケイコは、
軽い気持ちで、恋愛相談をしようと思っていた。
しかし、その霊能者が、いきなり顔をしかめて、人柱のことを話し出したのだ。
「人柱、ですか?聞いたことはありますけど…詳しくは…」
「そう、そう…人柱はね、例えば、橋を架ける時や、お城を建てる時なんかにね、
洪水や、敵の攻撃から守ってもらうための、お守りみたいな存在ね。」
「あの…、生きながらにして埋められるって聞きましたが…」
「そう、そう、よく知ってるじゃない。」
なんだか、コワイ話しになりそうだな、とケイコは感じていた。
面白半分な気持ちはすっかり萎えている。
まさか、自分が、前世で人柱に立ったことがあるとか、
その恨みが残ってて、恋愛がうまくいかない、とか
そんな話しじゃなければいいのに、と願いながら聞いていた。
「昔、そう、500年ぐらい前かしら。
お城の立て替えの時に、人柱の募集があったのよ。
あなたは、自分の娘を差し出しているわね。」
「え?自分の娘を、ですか?!」
想像もしていなかった。
母親が、自分の娘を生け贄に差し出す?
そんなひどいことを自分がした?
自分が人柱に立った、と言われた方が、まだましだったと、
ケイコは今さらながらに思った。
「そう、そう…あなたの娘は、障害を持って生まれたのね。
あの時代、そのような子供を産んだことで、
あなたは”畑が悪い”と、家族や親類にさんざん罵られたの。
あの頃は、障害のある子供が産まれたら、
家族はひた隠しにして、表に絶対に出さなかったのね。
娘は、本当に優しい子だったけれど、
言葉も話せなかったし、大人の言うことは、ほとんど理解できなかったから、
暗い土蔵の中で、息を潜めるような暮らしを余儀なくされていたの。
それでも、村の噂はあっという間に広がるでしょう。
あの家に近づくと、病気がうつる!って言われて、
家族みんなが、村八分のような辛い暮らしをしていたわね。」
ケイコは、他人事のような気持ちで聞いていた。
いや、そうしないと、自分を保っていられないような気がした。
泣けなかった……
<ひとばしら〜その2〜>につづく