ひとばしら〜その3〜


<ひとばしら〜その1〜>
<ひとばしら〜その2〜>
のつづきです。

「あら、ケイコさんも、こういう話に興味あります〜?」

聞けば、取引先の女性、平岡さんは、
最近ヒプノセラピーを受けたのだそうだ。

「そこでね、なんか映像が浮かんできちゃったんですよ。
自分が、キレイな赤い着物を着せてもらって、
普段は食べられないような、お餅をもらって、
すごくうれしいと思ってる映像が!」

「え?うれしいんですか?平岡さん、これから生き埋めになるのに?」

「ええ、確かに、土をどんどんかけられて、
息苦しいなぁ、イヤだなぁ、と思う気持ちもあるんですけど、
この過去生の時、私はちょっとおつむが弱かったみたいなんですよね〜。
だから、赤い着物やお餅がうれしくて。」

ケイコは、あの時の霊能者の話をハッキリ思い出していた。
あの時、差し出した自分の娘も、知的障害を持っていた。
もしかしたら、
平岡さんが、あの時の自分の娘?!
だとしたら、とても言えない…。
ごめんねって、何万回言ったって、きっと許してもらえない。

「ケイコさん、大丈夫ですか?顔色悪いですよ。」
平岡さんが覗き込む。

「ケイコちゃんは、怖がりの癖に、こういう話、好きなのよね。
社員旅行で箱根に行った時も、ブルブル震えながら聞いてたもんね〜」
と同僚に突っ込まれて、顔の左半分で笑い顔を作る。

「それでね、あの時、私は、おつむが弱くて、何もできなくて、
家族のお荷物になっている、ってことを認識してたんでしょうね。
だから、人柱に立つことで、私が、人の役に立つことができる、
そのことが、とても誇らしかったんですよ。
いつも悲しそうな家族に、何かしてあげたい、そう思い続けていたんですよね。」

「へ〜、人柱になった人って、みんな恨みを持ってるのかと思ってましたよ〜」
同僚の相づちに、ケイコも、慌てて頷いた。

「ただ、ひとつ後悔があって…
私、言葉がうまくしゃべれなかったから、
あの時、泣いているお母さんに、ちゃんと別れの言葉を伝えられなかったみたいなんですよね。
私が、ちゃんとしゃべれなくて、頭も悪いせいで、
お母さんがいじめられて、ごめんねって言いたかったんだと思うんですよ。
だけど、人柱にしてくれたから、やっと自分も、お母さんの役に立つことができた、
しかも、赤い着物においしいお餅ですよ!
うれしかったという思いが強かったですね〜。」

「あ、もしもし…」
ケイコは、鳴ってもいない携帯電話を耳にあてて、
平岡さんと同僚に、軽く会釈すると、
急いでトイレに駆け込み、しばらくおいおい泣いていた。

ケイコの強張っていた背中が、すーっとやわらかくなった。

(完)

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