等身大の彼とハチドリ

<少年とハチドリ>
<青年とハチドリ>
<彼とハチドリ>
<本当の彼とハチドリ>
のつづきです。

「にゃお〜〜〜〜〜〜〜ん」

わ!!
なんてでかい猫!!
真っ白な、毛足の長いペルシャ風の猫がいる。
部屋一面を埋め尽くしている。

クリキンディの長い心の旅で、
ようやく奥目王子の心の部屋に辿り着き、
アーリマンの闇を祓って、やっと本体と話ができる思ったのに…
なんじゃそりゃ〜〜〜

やっぱり、誰かに守ってもらわないと、不安でしょうがないんだね。
わかった。
ふわふわで気持ちいいから、このままこの化け猫ちゃんにいてもらおうね。

で、思い出したの?君がこの人生で本当にやりたかったこと。

「大きな橋をかけたかったなぁ…。アーチのキレイな白い橋。」

「それ、映画”素晴らしき哉、人生!”の人と一緒だね!
本当の橋をかけることはなかったけど、
人の心に橋をかける素敵な映画だったよ。」

「あとは、どんなことしたい?」
「そうだな…あんなことや、こんなことや…」

しばらく話していて、ふとクリキンディが気付いた……

「あれ?ね、君、大きくなってるよ?」
「え?ホントだ!」
「ほら、現実世界と同じ大きさになってるよ、やった〜!自分を取り戻したんだよ。」

クリキンディは、奥目王子と手を取り合って
ぐるぐる回り続けた。
すごくうれしくて、ずっと踊り明かしたい気分だった。

おめでとう!
もう大丈夫だね。

ぼくも、ハチドリのクリキンディじゃなくて、
本当の自分に戻るよ。
また明日。
今度は本当の自分たちの姿で話をしようね。

(完)

人気ブログランキングへ←え?猫ですか、いつのまにかいなくなりましたよ。(^-^)

本当の彼とハチドリ

<少年とハチドリ>
<青年とハチドリ>
<彼とハチドリ>
のつづきです。

真っ暗だった。
何も見えない。
そこはコールタールの海みたいだった。

「ねぇ、どこにいるの?」
ハチドリのクリキンディが声をかけてみても、
何の反応もなかった。

ついに、ぼくの前から消えちゃったのかな…

ここは、クリキンディの心の想像の世界。
クリキンディが現実世界で、うまくコミュニケーションがとれない人、
こっそり「奥目王子」と呼んでいる彼の、
インナーチャイルドと話をしてみたい、
そうして始まった心の旅は、
金髪の少年との冒険、
金髪の青年との大暴れ、
被爆してしまった彼との心の対話、
と続いた。

ついにいなくなっちゃったのか…?

コールタールの海で、クリキンディは、もう一度探してみようと思っていた。
自分の想像の世界なんだから、この闇を祓えばいいんだ…

…そうだ!電気をつけてみよう!

何も見えない中で、右手を伸ばして探ってみると、
壁のような感触と、スイッチの感触が手のひらにあたった。

ぱちっ!

ざざ〜〜っと闇が晴れた。
思いのほか小さな部屋だった。

そして、その部屋には、
金髪の彼ではなく、奥目王子本人がいたのだ。

わ!ちっちゃい!
とクリキンディは心の中でつぶやいた。

奥目王子は、現実の姿そのものだったけれど、
抱きかかえられる赤ちゃんぐらいの大きさしかなかった。

こっちを見ようとしない。

…怖いんだね。
だから小さくなっちゃってるんだね。

ぼくは君を傷つけたりしないよ。
戦わないって決めたから。

金髪の少年も青年も、
本当の君が、鎧のように身につけていた仮の姿だったんだね。
その鎧は原爆で吹き飛んじゃったし、
やっと本当の君に会えたってことなんだね。

君が、君を守ってくれていたと思っていた闇は、
アーリマンだったんでしょう?

闇の存在に守ってもらわなくても、
君が君自身を生きた方がいいと思わない?

ね、君はこの人生で、本当はどんな風に生きようと、計画していたの?
また来るから、今度教えてね。

<等身大の彼とハチドリ>につづく

人気ブログランキングへ←まさか、こんなに長いシリーズになるとは…

彼とハチドリ

<少年とハチドリ>
<青年とハチドリ>
のつづきです。

「君はだれ?なぜそんなことになってるの?」

何もない空間に、
ひとりの人らしい形をしたものがいる。

「金髪の青年を探してるんだけど、どこにいるか知らない?」
ハチドリのクリキンディが話しかけた相手は
何も言わずそこにゆらゆらと立っている。

それは、顔が半分しかなかった。
そして、身体じゅう、真っ黒に見える。
まるでコールタールが張り付いているようだ。

うつろな目はどこを見ているのかわからないし、
口のように見える部分からも、言葉が出ることはなかった。

もしかして…
君が、あの金髪の青年なの…?

もしかして…
ぼくがあんなことをけしかけたせい…?

金髪の彼が少年だった時には、
地球上を探検した。

彼が青年になった時、
彼の作り出した街を、原子爆弾で粉々に吹き飛ばした。

自分で作った爆弾で被爆した、ということ…?
想像の世界なのに?

自分の行動の責任をとったということ?

そうか…
すごい経験をしたんだね。

金髪だった彼に聞こえているのかわからないままに、
クリキンディは話し続けた。

チェルノブイリの事故処理にあたった人の、ドキュメンタリー映画を見たことがあるんだ。
メルトダウンして爆発した炉心を、コンクリートで固める処理が行われたんだけど、
その作業員たちは、順番に列を作り、
走って炉心まで行き、
そこで30秒とか1分とか、時間を決めて作業をして、
また走って帰ってくる。

そうやって、少しずつ被爆させられたため、
肉が少しずつ溶けて落ちて、
骨が見えているのに、死ぬこともできず、
長い間苦しんだんだって。

君もすごく辛いんだろうね…
ごめんね、わかってあげられなくて…

また…、来るよ。

<本当の彼とハチドリ>につづく

人気ブログランキングへ←うう、めっちゃ重たい話になっちゃいました。もうショートショートじゃないっすね…

不運を引き寄せるひと

アーリマンシリーズの途中ではありますが、
ちょっと別なお話を。

クリキンディの友人に、とても優秀な「いい人」がいます。
非常によく気がつくし、
まわりに気を使うことにかけては右に出る人はいないと思われます。
そして、その賢さを鼻にかけることもなく、みんなに好かれています。

ですが…
結構、この人小さな不運を拾ってくるんですよ。

大事な仕事の前に風邪をひくとか、
出張の前に、車が故障するとか、
必要なものが壊れるとか、
大切なペットが病気になるとか、
自分自身が怪我をするとか…

私が記憶している限り、彼女に起きた一番大きな不幸は、
「自宅に雷が落ちた」ことでしょうか。

聖書を読んだことのある方はおわかりだと思いますが、
雷は、天からのわかりやすいメッセージとして使われます。
雷が落ちた時、彼女は自宅で電話をしてたらしいのですが、(まだ携帯のない時代)
その電話線が引いてある壁に落ちたのだそうです。
普通、高い場所に落ちるはずの雷が、壁に向かってくるなんて、
そりゃメッセージとしか思えません。

その話を聞いた時に、
なんで、こんなにいい人なのに、神の怒りに触れたりするんだろう?
と、まったく理解できませんでした。

しかし、
ようやくわかってきました。

彼女は、自ら小さな不幸を招いていたんです。

つまり、
たとえば仕事上で、気の進まない状況があったとします。
ああ、いやだなぁ、この仕事したくないなぁ、って。
だけど、「いい人」である彼女は、それを「投げ出す人」にはなりたくないんです。

そこで、自分は一生懸命その仕事をやろうとしているのに、
どうしてもできない状況、
例えば熱が出て行けないとか、
車が壊れて行けなくなったとか、
そんな状況を作り出すんです。

そうすれば、まわりは「そんな状況ならしょうがないね」
と認めざるを得ないし、
「済みません、このためにこんなに準備はしていたんですが…」
と言われれば、「まじめでいい人なのにかわいそうに」
と思ってもらえるんです。

彼女に感じていた違和感は、ここにあったんだなぁ…
似たような状況が、ここ一年で少なくとも4回、私の記憶にあります。
ということは、私が知らないところで、もっとたくさんの不幸を引き寄せていると思われます。

それでも、彼女自身は、自ら不幸を招いていることに気付いていません。
なぜなら、一切の嘘をついていないからです。
本当に病気や怪我で苦しい思いをしているし、
事故や故障で、高い代償を払っているのですから。

いつか、気付く日がくると信じるしかないですね…

人気ブログランキングへ←あなたのまわりにもこんな人いませんか?

青年とハチドリ

<少年とハチドリ>のつづきです

郊外の住宅地、大きな団地がいくつも並んでいる地域の真ん中に
小さな公園が作られている。
緑が豊かなわけでもなく、子供たちが遊べるわけでもなく、
ただ、バス停とベンチがあるだけの公園。

そのベンチに、青年は随分前から座って動かなかった。

もとはキレイな金髪だったと思われる長髪は、
もつれてあっちこっちにハネている。
おそらく高校生ぐらいの年齢だと思われるのに、
表情はとてもやつれて老けて見える。
いろんなことへの怒りを通り越して、失望の中に沈んでいるように見えた。

どこからか、小さな一羽のハチドリが飛んできた。
青年の肩に止まって小さな声で話しかけた。
「やぁ」

青年は、ハチドリを見ようともしなかった。
「なんだよ…」

「クリキンディだよ」
「知らねぇよ、そんな名前」
「また、自分だけの世界に入っちゃったの?」

青年はふと、思い出した。
幼い頃に、クリキンディという名の誰かに、
海や空の冒険に連れていってもらったことを。

「何しに来たんだよ」
「…遊ばない…?」
「何言ってんの?オレは子供じゃないし、忙しいんだよ。鳥と遊んでる暇はねぇよ!」

青年は、自分をとりまくすべてのことに腹を立てているみたいだった。
何もかも面白くない、楽しいことなんてひとつもない、
そんな風に見えた。

「あのね、こんなつまんない街、壊しちゃおうよ」
クリキンディの突飛な提案に、青年はギョッとして立ち上がった。
「ウルトラマンとか、怪獣が街を壊しちゃうの、あるでしょ?あれ、一度やってみたくなかった?」

「壊すって…おまえ……」
「いいじゃない?だって、ここは君が作り出した世界。誰にも迷惑はかからないよ」

大きな団地に回し蹴り!
小さな家は踏みつぶす!
電柱も全部引っこ抜いて、遠くに投げた。

汗をかきながら、壊しまくる青年の顔には、笑顔が浮かんでいた。
「よ〜し!今度はこっちも壊すぞ〜!」

ひととおり壊し尽くして、座り込んだ青年に、
クリキンディが話しかけた。
「ずっと、こうしたかったんでしょう?我慢してたんだよね。
どう?やってみたらスッキリした?」

「うん、オレさ、自分がやりたいと思っていたことは、全部、親に反対されてできなかった。
それでも、やればよかったんだけど、勇気がなかったんだよな。
もう、やってみたい、ってことさえ言葉にできなくなって、
自分が本当にやりたいことが、何なのかわからなくなってたんだ。」

「もう、ここではやり残したことはない?」
「うん。…いや、せっかくだから、全部吹っ飛ばしちゃおう!
思い切って原爆使ってみるか!」
「その意気!やっちゃえやっちゃえ〜!」

青年が心の中に作り上げた「誰もいない街」は、
大きな「きのこ雲」とともに、きれいさっぱり消えてしまった。

「面白かったね。サヨナラ。元気でね!」
爽やかに飛び去るクリキンディは、
またすぐに、彼の作り上げた世界に来ることになろうとは、想像していなかった。
<彼とハチドリ>につづく)

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心のコンパスに従って生きていたら、いろんなことが見えてきました。