パラレルワールド


余は、小さいながら一国一城の主である。
整然とした我が国には、パラレルワールドが12個存在する。

主としては、パラレルワールドのすべてを把握しておかなくてはならないので、
余は、頻繁に視察に出かけることにしている。

本日の視察予定は、パラレルワールド3層目だ。
この3層目の世界は、かなりうまく回っており、とても清潔な世界である。
民は平和主義であり、常に会話と微笑みであふれている。

余は満足である。

しかし、先日視察に訪れた12層目の世界はひどいものだった。
その世界の民は、あいさつというものをどこかに忘れてきてしまったようだった。
頻繁にガラス窓が割られたり、あちこちの窓から罵声もよく聞こえてくる。
ついに、12層目の世界を抜け出そうとして、空へ飛び出す者さえいた。
その者は、違うパラレルワールドに移動できず、異次元空間で彷徨うことになってしまった。

余は非常に残念である。

明日はどの階層を視察に訪れようか。
その世界が平和で美しいことを願っているが、
それはそこに生きる民が選ぶ道。
余はそれをコントロールしようとは思わぬ。
さて、今日はもう休むことにしよう。

TV<今日のニュース一番しぼり!>

アナウンサー:
「先日高層マンションの12階から飛び降り自殺のあった事件の続報です。
どうやらこのマンションの住人は、妙な霊現象によく遭遇していた模様です。
霊能者に同行してもらって取材した映像をご覧下さい。」

霊能者:
「ええ、なにやら黒い影が見えます。
この霊は、ボタンを押すのが好きなようです。
…なになに?……パラレルワールドへ行くスイッチですか。
自分のことを王様か何かだと思っている霊のようですね。
霊さん、霊さん、あなたが移動手段だと思っている乗り物はね、
エレベーターって言うんですよ。
さあ、お迎えが来ましたよ〜、成仏しましょうね。」

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