「おい、今晩ヒマ?一緒に飯食おうぜ、あの幻の食材がついに手に入りそうなんだよ。」
「お、すげぇじゃん!行く行く!」
「ここしばらくはさ、ありきたりなものしか食ってなかったじゃん。
こっちの牧場では、早く成長するようにいろいろ新しい餌を与えていたのに、
さっぱり効果を感じなかったもんな。」
「確かに、まぁ育つのは早いっちゃ早いんだけどな、中身がないっていうか、
ちっともおいしいと思えなかったよなぁ。」
「あっち側の牧場はさ、ちょっと厳しい環境でも育つかなぁと思って、
ほとんど日が当たらないようにして、あまり栄養も与えなかったんだけど、意外にうまかったよな。」
「うんうん、なんていうか味が複雑で、噛めば噛むほど味が出るって感じだった。」
「今日のは特別だぜ。
いろんな牧場を定期的に移動させて育てたんだ。
しかも、こいつはそのすべての牧場で、他の家畜たちのリーダーになったんだぜ。」
「牧場は全部環境が違うし、家畜たちはみんな性格も違うのに?」
「ああ、運動能力の高いグループでは、誰にも負けないパワーを出したし、
ちょっと賢いグループに放った時も、他のやつらが一目置くようになったんだ。
大食いのグループじゃ、一番餌を食ってたし、
餌を与えないグループに放り込んだ時は、水だけで生きていやがった。」
「すげぇな、どんな環境にも適応できるなんて、完璧じゃねぇか!
こいつの遺伝子をクローン増殖させれば、もう他の家畜は必要ないんじゃねぇのか?」
「ああ、もちろんやってみたさ。
だけど、クローンじゃダメなんだ。
大事なのはDNAじゃなかったんだ。」
「ってことは何か他に大事なものがあったのか?」
「ああ、家畜たちがうまく育つために一番大事だったのは何だと思う?
経験値だよ。
環境をどんどん変化させれば、それに対処できたやつは、それだけ経験値が上がる。
経験値はDNAに書き込まれるんじゃないんだぜ。」
「どこだよ?」
「魂だよ。」
「ああ!そうか!経験値の高い魂が一番うまい!ってことか!
今までいくつも魂を食ってきたのに、気付かなかったぜ。」
「今日の魂はな、最初はオリオン座の牧場で生まれたんだよ、
その後、M78星雲を経て、太陽系の金星で長い事育てたんだ。
でも、こいつが経験値を一番上げた星はどこだと思う?」
「うーん、アンドロメダ?じゃないよな?」
「お前、知ってる?すげぇ小さな星でさ、太陽系の中にある地球って星なんだぜ。」
「ああ、知ってるよ、ほとんど地獄って呼ばれてる星だよな。」
「その地球で育てた、経験値の高い人間の魂が、もうすぐここへ届くのさ〜!
とびきりの食材だよ。」
「その家畜、地球じゃなんて呼ばれてたんだ?」
「ああ、確かイエスとか言ったかな。
さぁ、やつの魂が、そろそろこっちへ上がってくる頃だな。
ツルッと踊り食いしちゃおうぜ〜〜!」
※「羊たちのアセンション」へつづく