移住しました その20 「被災者はお金持ち?」


2013年の秋、人生の夏休みと言ってもいい時間を過ごし、
そろそろ次のステージへ進むタイミングが来たようです。
ひとまず、必要最小限の荷物だけを持って、アパートにひとりで引越すことにしました。

新しい土地で、いったいどこが便利なのか、相場はどうなのかなど、
まったくわからない状況の中、
「家探しを手伝ってあげる」という人が現れました。

以前にも書いたように、クリキンディは福岡生まれなので、
九州には親類が結構たくさんいます。
ただ、ほとんど付き合いはなく、年賀状のやりとりすらない状態…

ですがやはり血は水より濃いということなんでしょうか、
10年以上音信不通だった兄が、
クリキンディの移住を知り、仕事の合間を縫って不動産めぐりに付き合ってくれることになったんですね。
それはとても心強くありがたいお話でしたのでお願いすることにしました。

しかし、家探しのあれやこれやのやりとりをしているうちに、
なんだか少しずつ話が噛み合わなくなってきました。
なんだろう、この違和感…

いろいろ会話をしているうちに、こんな言葉が兄から飛び出しました。
「放射能がイヤで移住したわけ?被災者はだいぶ国からお金が出たんでしょ?
何百万もらったか知らないけどさ、いい身分だよな。」

え?一銭ももらってませんけど…

確かに、被災の状況によって、いくらか見舞金のようなものをもらった人もいるでしょうけれど、
条件(被災状況を細かく申告する)に合わなければなにも補償はありません。
クリキンディの場合、一時期高速道路が無料になった時期はありがたく使わせて頂いたことと、
職場の組合的なところから、ほんの少し見舞金が出たくらいで、
仕事ができなかった期間の収入減にすらまったく追いついていません。

世界中から莫大な募金が集まったというニュースはたくさん見かけましたが、
それがいったいどこにどのように使われているのか、よくわかりませんよね。
私たち宮城県民は義援金を受け取るどころか、
震災直後から、街角で募金活動が行われていましたが、
私たちって被災者じゃないの?と、とても違和感を感じていました。

参考までに宮城県の義援金の配分はこのように発表されています。
http://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/gienkin-haibun.html

この金額、どう思います?
ちなみに、この金額や条件は自治体によって様々です。
すべてを調べたわけではありませんが、
被害の大小とはまるで比例していない金額のところもたくさんあったようです。

見舞金などもらっていないことを兄に伝えると、
「いや、だってさ、テレビとか新聞とか見てたら、なんか募金額とかすごいし、
被災者にたくさんお金がいくような報道されてるだろ。」

そうですね…
ここにも、報道を鵜呑みにしている生き証人がいました。
もちろん、原発や放射能のことについても同じ事です。
クリキンディのことをいろいろ心配してくれて、こうして時間を割いてくれた兄でしたが、
会話すればするほど、お互いがすれ違ってジレンマが大きくなるばかり…。

「いいか、不動産やに行ったら、放射能のこととか、
自分が被災者でいかに辛い状況か、なんて話すんじゃないぞ。
同情をひこうと思って言っても、向こうには関係ないし疲れさせるだけ。
むしろいい物件を紹介してもらえなくなるからな。
不動産仲介業にとって、借りにくる人は客じゃないんだよ。
不動産を持っている人が金を生んでくれる客なんだ。」

などなど、他にも参考になるアドバイスがいろいろ出てきましたが、
話を聞いているだけで、どんどん希望を奪われる気持ちになります。
「心配」ってなかなかくせ者ですよね。
行き過ぎると「相手を自分のコントロール下に置く」ことが目的になってしまいます。

そんな気持ちをうまく表現できなかったクリキンディ、
「なんかつらい…」としか言えず、
たぶん、怒らせちゃったなぁ。それ以来連絡をくれません…
でも、同じ県民になるのだから、きっとこれから先ゆっくりと、
もつれた糸をほどいていく機会があると信じましょう。

この会話、よくよく考えてみれば、
原発事故以来、私が友人たちにしていたこととよく似ています。
大手のメディアは「大丈夫ですよ」と情報を流すことで、希望を持たせているけど、
それは不動産が事故物件を「とても素敵なお部屋ですよ」と宣伝するのと一緒で、
その裏には「本当のことを知ったら不快になり怒りたくなる」事実が山ほどあります。

本当のことを相手に伝えることは、
相手の希望を奪うことになる場合が多いんですね。

一番わかりやすいのは、恋愛でしょうか。
「あの人、とても親切だからきっと私のこと好きなんだわ」
って思っている時に、
「残念だけど、あなたの顔が好みじゃないんですって」
と言われたら死にたくなりますよね。

放射能の危険性を一生懸命伝えようとがんばっていたクリキンディのまわりから、
友人が離れていった理由はまさにここにありました。

しかし、真実を伝えないまま、中途半端に希望を与え続けるというのは、
相手にとっては、正しい道に辿り着く時間を引き延ばしているだけ、とも言えます。
そして、とても耳が痛い話ですが、
「嘘をついて希望を与えることで、自分が相手に嫌われない」ことが最優先となっていることに気付きます。
つまり、
本当に相手のことが大切な人は、自分が嫌われる覚悟で正しいことを伝えようとします。
自分が一番大切な人は、嫌われないようにするために嘘をつくのです。

むずかしいですね。
誰もが真実だけを語りはじめたら、いったいどんな世界になるんでしょうね。
いろんなことが超速度で進むような気もしますが、
ではそんな世界に住みたいかと言われれば、今は「ノー」です。

さて、クリキンディにとっては、この兄との数日間は、
決して気持ちのいい時間ではありませんでしたが、
いろんなことに気付かせてもらった、とても大切な時間となりました。

この不動産やさんの話、もう少しだけつづきます。

(その21につづく)

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ブログ版をかなり加筆、修正しています。


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