考古学者の悲劇


私は古い遺跡を発掘して研究している考古学者。
歴史に残る遺跡を発掘したいと思っている。
自分が生まれる遥か以前に、一体どんな時代があったのか、何か見つけるたびにいろんな想像をして本当にワクワクする。

そしてなんとつい先日、ここには何千年も文明などなかったと思われていた土地に、とても大きな文明の痕跡を発見したのだ!
一体どんなものがそこから出てくるのか、世界中が注目する中で、私のチームは少しずつ発掘を進めていった。

かなり深く掘ったところに最初に出てきたのは、大きな壁のようなものだった。
なんということだろう、この壁には継ぎ目が見当たらないのだ。
おそらく材料は鉱物だと思われるのだが、非常に精巧に出来ており表面はとてもなめらかに磨かれている。
なんとか全貌をつかみたいと、我々は日夜掘り続けた。
しかし、それは掘れば掘るほどどんどん広がりを見せ、ついには町一つ分はあろうかと思われる巨大な建造物が姿を現した。

一体これはどんな遺跡なのだろう?権力者の墓なのか?それとも宗教儀式の施設なのか?
とにかく継ぎ目のない壁に覆われているだけで、入り口も出口もない。
壁の一部を壊して中へ入ろうと試みたのだが、とにかく厚い壁でなかなか内部に辿り着けない。
仕方なく私は、壁を壊すチームと、この遺跡の近辺を新たに調査するチームに分けて、他の痕跡を探し始めた。

それから数日経って、近辺の調査をしていたチームからうれしい報告があった。
なんと文字板を発見したというのだ。
同じ地層から発見されているので、おそらくこの巨大な遺跡と同じ時代に作られたものであろう。文字があるということは、高度な文明がかつてこの地にあったということなのだ!
人生最高の瞬間だった。私は歴史に名を残す考古学者として有名になるだろう。
私は古代の文字を専門に研究している博士に解読を依頼した。
「少し時間はかかるでしょうが、絶対に解読しますよ」
と心強い返事を頂いた。

その後もいくつもの文明の痕跡や新たな文字が発見されていき、壁を壊していたチームからも「ついに内部に通じました」と連絡が入った。なんとうれしいことだろう。
早速我々調査団は人1人がやっと入れる穴から内部への潜入を試みたのだ。
内部には、金属でできた筒状のものが大量に並べてあった。やはり墓のようだ。我々はその一体を持ち帰って詳しく調査することにした。今夜は自宅に持ち帰って眺めていよう。これは発掘者の特典だな、ふふん。

そしてその夜、ついにあの最初に発見された文字板が解読されたという連絡があった。
なんと書いてあるのだろう、王の名前か、それともこの巨大遺跡の解説なのか、ああ待ち切れない。

解読を依頼した博士からの手紙にはこう書いてあった。
「 ここは高レベル放射性廃棄物の地層処分施設である。 10万年間発掘を禁止する。」

なんということだ、
一体この施設ができてから今が何年後なのかわからないじゃないか!
だいたい高レベル放射性廃棄物ってなんだよ。
しかたないな、明日知り合いの科学者に聞いてみよう。

しかし…
かわいそうな考古学者は二度と目覚める事はなかった。

(「100,000年後の安全」という映画にインスパイアされて書いた作品です。未来の考古学者のためにも脱原発を。)


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